社内で飛び交うオウンドメディアというキーワード。
担当である筈の自分だけよく理解していないようだ。何やら、まとめ記事やコラムを書けば良いらしい。
果たして、ついていけるのかという不安を胸に、気付けば2017年。コラムはまっさらだった。
「実は自分は意外と楽天家だったのかもしれない」と言い訳をとりあえずしておく…。
尻叩きにより、その重過ぎる腰をようやく持ち上げたメタラーおすず。
寒空の下、城東の歓楽街・錦糸町のネオンが照らす道を足早に行くのだった——。
第1話:下町とネオンの間に佇む貴重なワインバーJitan(前編)
上京してきて早X年…東京は雪が積もらない代わりに底冷えがすると知ったのは、いつのことだっただろうか。
「なまら、しばれる」
口に出せば寒さがまぎれるような気がして、独り言を零す。決して世界を破滅させる呪文ではない。
今夜はどこへ行こうか。
オレンジの看板が視界の端に入る。さすがに金曜夜。ランチタイムから賑わう酒屋直営Tocciは未だ盛り上がりを見せていた。いっそ立ち飲み屋でもいいかもしれない。いやいや、ワインの勉強をせねば。
迷う空腹の私の目の前に、喜多方ラーメンがあった。
KALDIで販売しているラクサ、ジャンキーな辛ラーメン、その時の気分でサッポロ味噌ラーメン。前者は辛いものがとにかく苦手な自分にとって、味覚破壊されそうな辛さである。
しかし袋ラーメンは偉い。疲れた独り身の腹を速攻満たしてくれる買い置き必需品だ。
錦糸町に何年も住んでおきながら、駅近のこの喜多方ラーメン小法師に入ったことは無かった。
「久しぶりに外でラーメンでも食べるか」
のれんをくぐる。夜22時過ぎ、サラリーマン風の中高年が多い。カップルらしき男女がテーブル席へと向かって行く。
若い女子の際どい後ろ姿を尻目に端の席へと座ったところで、最近拙宅に居候している友人から錦糸町に来たとの電話が。ロング丈のパーカーだかワンピースだか区別が付きにくい。
「どこ」
LINEで位置情報を送ったのだが、友人には店の場所が分からなかったようだ。土地勘が無いのは勿論、酔っているのかもしれない。
外資に務める友人の会社は月曜から飲み会を開催する。誰かが誕生日なものなら、とりあえず飲む。社長は世間で秘境的な扱いを受ける某国出身なのだが、かなり俗な印象を受ける。とにかくパリピが多いようだが、大丈夫か。
電話で説明しながらメニューをめくる。餃子等のサイドメニューに目移りしながら、結局無難にネギが盛られた塩ラーメンを注文。とんこつは久しぶりだった。数分で運ばれて来たラーメンを食べ始めたところで、友人登場。そろそろ通行人と目が合うのが若干煩わしくなってきたところだった。
「まあ、座りたまえ」
既に酒臭い友人は腹を空かしていたようで、ラーメンと餃子を交互に見つめる。お前は私か。
しかし、空きっ腹にアルコールは本当に良くない。友人は迷った挙げ句、最終的に同じメニューを頼んだ。
透明感あるとんこつベースのスープを掬い、喜多方ラーメン伝統のちぢれ麺をすすると、鼻水がたれてきた。こういう日に限ってティッシュが見当たらない。
仕方なく固い紙ナプキンを拝借しながら、隣で早速来たラーメンにパクつく友人に水を向ける。
私の中では今夜の行き先が既に定まっていた。
続く